今更ながら群盗の感想 ~シナリオ・演出編~

公演は2019年2月~3月なので、今更感がありますが
2019年の宝塚観劇を振り返るにあたり、個人的に詳細を書かずにはいられない作品なので書くことにしました。
よろしければお付き合いください。
「シラー作の戯曲のミュージカル化」というだけでもなんだか小難しそうなのに、それを裏切らない公演解説文。さらに、シリアス感漂う黒いポスター。
予習のために原作を読んでみたという方々からは「難しくて投げた」というつぶやきも多数出ていて、理解できるかちょっと心配しながら見に行きましたが、面白かったです!
ただ、事前に思っていた雰囲気とはだいぶ違った!(第一幕が。)
そして、演出は賛同できないところがありました。
目次
事前イメージとは、雰囲気が異なる作品(恐らく賛否あり)
結末はだいぶ悲劇なんですが、第1幕はそんな気配がほとんどありません。
未来に希望を抱いて健やかに成長し、民衆のためになると考えて義賊になった貴族出身の主人公と、その仲間たちの物語。
明るい青春物語といった方が、すんなり来る。
読み返せば、重々しい公演解説の中にもちゃんと書いてありました(“宝塚歌劇版では愛と青春の物語としてドラマティックかつロマンティックに描き上げます”)が、人間ってビジュアルにすごく左右されるんだなー 苦笑。
でもまあ、キラキラしている青年キキちゃん(芹香さん)が素敵だし、仲間たちも精一杯でかわいいので、1幕のストーリーを否定はしません。
そして2幕は、事前イメージ通りのシリアス展開で、文句なし。
序盤は事前イメージとのギャップにびっくりしますが、見終わってみると「面白かった!見られて良かった!」と思える舞台でした。
シナリオについて
これは、2組の兄弟の悲しい物語
公演解説だけ読んでいると、主人公カールと恋人アマーリアの物語に思えますが、
物語を動かす軸になるのは、カールと腹違いの弟フランツ、そしてカールの父・モール伯爵とその弟ヘルマンの関係性。
自分で望んだわけではない辛い生い立ちゆえに、兄を憎むことになってしまった2人の弟は、悪役だけれども見ていて切ない。結果的に、誰も憎めない物語になっています。
また、どこまでが原作通りなのかどうかわかりませんが、設定に無駄がなく、前半の細かなやり取りが後半で活かされているのが素敵でした。剣術の腕前の成長に時間の経過を感じたり、カールが教えたフランツの文字による手紙の罠がやり切れなかったり。群盗の仲間たちそれぞれが夢見ていた姿に、カールが自分の最後の願いを託すのも泣けた。
第2幕第4場のデュエットダンスが最高
シナリオの評価なのか?と思いつつ
カールとアマ―リアの再会の喜びと愛を表現したであろうデュエダンだと思い、ここで書いておきます。
喜びと愛と書きましたが、このデュエダン、大変妖艶でして
一言で言えばエロい(身も蓋もない 笑)
なんだろうな、二人の表情のせいでしょうか。
紺色のフロックコートと喪服っていう暗い色合いなのも素敵なんだよな~。
ベートーヴェン「テンペスト」のドラマティックなメロディに乗せて、優雅に舞う2人に目を奪われます。
こんなに素敵なデュエダンなのに、元々の台本にはなくて「ここで踊っておこう!」と急きょ追加されたらしいので(お茶会情報)
小柳先生ナイスとしか言えないし、
最高の品質で作り上げてくれたキキじゅりにも感謝です。
結末について
初めて見た時は、急展開に全くついていけず「これでいいのか??」と思ったのですが、見返してみると、アマーリアが理由を言っている気がする。
それから、宗教的に自殺は絶対に許されないからだとファンの方が仰っているのを読んで、なるほどと納得しました。
フィナーレが傑作
小劇場作品ですが、しっかりフィナーレがあり、これもわたし的には傑作。
大半が、本公演では群舞に出たことのない下級生だらけなのに、速いテンポに乗せてキレッキレに踊る、変わり軍服の男役群舞がかっこいい!
(経験者が少なすぎて、過去の黒燕尾の映像を見て研究したというエピソードも微笑ましい)
本編の後日談的な雰囲気があるデュエダンは
キキじゅりがかわいくて、多幸感に溢れている。
2幕の再会デュエダンとは全く違う雰囲気なのが、また良いです。
そしてパレード。
一人一人が、役として活き活きと再登場するのが、とっても良い!
本編では幸せになれなかった人たちが、みんな幸せそうでねぇ。
ラストは後方の子ども達がめっちゃ良いのですが、映ってなくて残念極まりないです。
どうしても受け入れられなかったアニメ風演出
というわけで、全体的に大好きなこの作品なのですが
アニメっぽい演出が、未だに受け入れられません。
主題歌「星空の誓い」が、アニメのオープニング風でノリノリ。
アニソンが嫌いなわけではないんです。
ただ、この作品に合わせる必要性を感じられなかった…!
(さらに、これは観客の問題だけど、個人的にここでの手拍子が苦手でした…。blu-ray収録版にもしっかり入っていて、ちょっと切ない)
それから1幕ラスト。
普通なら、静かな音楽で涙必須の場面にするであろうシーンでテンポの速いBGMが流れ、「俺は負けないぜ!立ち上がるぜ!」的な熱い演出。
いいよ、その気持ちになるのはいいけど。ロックすぎるでしょ。
いずれも、演出の小柳先生が意図的にされていることだとわかっていますが、私の好みには合わなくて。
群盗でマイナスに感じるのは本当にここだけなので、実に残念でした。
小柳先生は、パンフレット掲載のメッセージで、今回の群盗を上演する意義の1つとして “近年発表される作品が「泣ける」「元気が出る」など、機能重視になりすぎてしまっていることへの問題提起” だと仰っています。
歳を取るほどに、映画やドラマで「ここは泣くシーンだよ!」という製作者の意図を感じるシーンで冷めてしまい、泣けなくなっている私(笑)としては、小柳先生の言葉にとても共感したのですが、だからといって、自然に泣ける場面でジャジャーン♪とされると、涙も止まってしまいますわ。
劇中で流れる音楽自体は好きで、特に、クラシックや民謡を元にしたものは世界観に合っていて良かったです。
「星空の誓い」も、曲としては好きなので、なぜあそこで使った!というぐらい。
最後にヴァールハイトがソロで歌ってたのは素敵だったなぁ。
こってぃ(鷹翔さん)の歌のうまさを痛感した。
作品に魅力をプラスしていたのは、若さ
元々「若気の至り」的な熱さが物語の軸にあるであろう群盗という作品を、宝塚でこのように表現できたのは、下級生ばかりで組まれた座組だったからだろうと思います。
あの時、このメンバーでしか表現できなかった作品だと思う。
キャスト28名中、10年目以上の経験者が4名のみで、新人公演学年(7年目以下)の方が22名。
うち、3年目以下が11名という、宝塚的に「大丈夫?」というメンバーで、このクオリティの舞台を作り上げたことが、観客の心を打つ一因になっていたと感じます。
ナウオンで、りんきらさんが、稽古場は「みんなでどうにか頑張ろう!」という雰囲気だったと言っていましたが、本公演でセリフを話したこともないような下級生にとって、上級生に隠れられない群盗チームに振り分けられたことは、大きな挑戦だったに違いない。
けれども、公演が始まって、自分の演技が観客に受け入れられているのがわかり、演じることがどんどん楽しくなっていったんでしょうね。見ているこちらからしても、演者そのものが魅力的に感じられる舞台でした。
おかげで下級生のことが大好きになって、群盗以降、宙組の本公演の「目が足りない」レベルはハンパないです 笑。
より楽しませてくれたのは、ファンの皆さん
ファンの皆さんが、ネット上で熱い感想をたくさん書いてくれなかったら、ここまで群盗にハマっていなかった気もしています。
宙組ファン(キキちゃんファン?)って、オタクが多いんだなと気づいた時期でした。
※褒めてます。私もその部類ですし。
自分では気づけなかった、物語やキャストの魅力を、たくさん教えていただきました。
こっそり参加した、おうち鑑賞会も楽しかった。
一人でじっくり見るのも良いけれど、人の意見を聞きながら見るのも楽しいですね。
思った以上に長くなったので、キャスト別感想は記事を分けます~。